[Soundings]
<About Music>
プログラミングを依頼したAlex Swiftを紹介してくれたのは彼と一緒にPeter Gabrielのアルバム[UP]に深く関わっていたDavid Rhodes。僕自身の通常の仕事のスタイルではなくかなりの自由度を与えてリズムトラックを共作するプログラマーとして、まさに適任であった。当初は[Criteria]1曲のみを依頼したはずだったのだが半ば当然のようにこの曲のデータも送ってきたのには驚いた。しかも「自賛するコメント付き」で。何にしても時代と共に音楽作りのプロセスが変わったことを実感する事が多かった。WEB上でのやりとりだけでは不足な気がしてロンドンから南へ1時間ほどの郊外に住む彼の家まで出かけていったのは旧勢力である証拠なのかも。普通のアパートの居間で作業をしている彼の環境を見て出てくる音とのギャップに驚いたのも事実。
Alexの提示したアイデアから更に成長をしTchadの感性が加わって内面的にも大きな変化を遂げた曲。土方隆行のリズムギター、山本拓夫のサックスがあって成立する光と闇のアンサンブル。曲の進行と共に次第に高揚していく、という音楽作りがMix Downの過程で創造できると言うことを示してくれたTchadの才能には敬服する。
<About Words>
「音楽について語るのは、建築について踊るのと同じくらい無意味だ」という言葉をローリー・アンダーソンが引用していた。にもかかわらず、この曲のテーマはおそらく「音と音楽と人」。単に「好きだから」というレベルを超えて何十年も「退屈することなく作り続けている」のは音楽という表現が光合成のように僕(のような者)に(さえ、も)力を与えてくれ続けているからなのだ。そしてもう一つこの曲が生まれるきっかけとなったのがアメリカの建築家+教育者ジョン・ヘイダックJohn Hejduk(1929-2000)の書いた画文集とも言うべき本。とうてい実現し得るとは思えないようなスケッチと散文詩のような文章が満載のこの本が「Soundings」というタイトルなのである。何故建築に関わる一種哲学的な思考をまとめた書物が「響く」のか?という疑問はそもそも「Sound」という言葉に「測る」という意味があることを知って氷解した。水の深さや距離を測るという行為の中に「聴く」事が深く内包されているとは何かを暗示している気がする。経堂南口の古本屋で偶然この本を見つけた時にきっと僕は何かを測り始めたのだ。
井上 鑑