[夏の庭にて]

<About Music>
この曲もまた今剛無しには成立し得なかった。彼の持つ物語性というか時間の流れを操る力というか、とにかく天性の表現力があって音楽になっている曲。特にフラットマンドリンの音色と演奏はワールドクラスのものだと思う。最初に作ったときはエレクトリック・ピアノがベースだったのだが必然的にアコースティックな方向へ成長をしていった曲。TchadのMixもリリカルで美しいが楽器のバランスを取るだけではなく何カ所かは楽器数を減らしたりしながら全体の流れを作っていく過程を見ているのは貴重な授業、という感じだった。ある程度出来たところで「何だか普通すぎるんじゃないか?」と言う話になり、マンドリンに逆回転エコーをつけるという過激なアイデアをTchadが思いついた。周波数帯域の高い楽器だけにサウンド全体を濁すことなく「霞がたなびく」感じの色彩感が生まれてきた。こうした「自由な発想」はまだまだ日本のエンジニアには足りないものかもしれない。

<About Words>
一部分を仕事場にしている実家のお隣に2世代前からのお付き合いのお家がある。今では増築のためになくなってしまったが以前は素晴らしく手入れをされた清楚な庭が近所の人々に愛されていた。木立、芝生の緑、華美すぎない花壇、テーブルと椅子などすべてが持ち主の人柄を表していて見るたびにいつも心が和むのだった。僕の父親はチェリストだったのだが練習室から聞こえる音を外の道路で雨の日に傘をさして聴いているくらい音楽好きだったお隣のマミーが他界したとき、この庭の想い出は更に特別なものになってしまった。植物に関する知識のない僕が詩を書くとき「思いついたままに並べた」植物達が幸運にもみんな「夏の植物」だったのは何かの暗示だろうか。とにかくこの曲の詩は驚くほどスムーズに出来上がった。悲しむべきはこの詩から思い出すひと、としてもうひとり本田美奈子さんを付け加えなくてはいけなくなってしまったことだ。

井上 鑑

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