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#02. 原体剣舞連

ん?ゲンタイケンブレン?と訝って結局読み方が判らない…と面食らったのは中学生の頃。

 

僕の宮沢賢治との初遭遇は絵本の「セロ弾きのゴーシュ」でしたが、詩編は何回読んでも難解でした。

漠然と「言葉そのものが格好良い」という感触はあったので、この怪しげな集団名に何が潜んでいるのか?と心は躍りましたが、接近法も判らなかったのでした。

 

思春期前後、賢治を深く読んでいる女子に憧れと親近感を覚え、そうした思いを悪用する機会を常に窺っていたのですが、

めったにそんな子は居ませんから、まさに少数派の面目躍如たるものでした。

 

しかしそれにしても、語感とリズムの魅力は凄いものです。

風の又三郎の冒頭なんて「どつどど どどうど どどうど どどう」これってほとんどヘビメタでしょう。そして続くのが「あ〜まいりんごも吹きとばせ すつぱいりんごも吹きとばせ」ですから、「NIRVANAかいな」と思わせるパンクな叙情性に吹き飛ばされます。

 

戦前、昭和15年に杉原泰蔵という上海帰りのピアニストが作曲した歌が存在し、我が家でも母がよく口ずさんでいました。

刷り込まれてしまって僕も追認してしまいますが、この曲が原詩の凄さを受け止めているかどうかは微妙。

原文は小文字の「どっどど」では無く「どつどど」なので、もう少し気迫が欲しい気がします。

敬愛する先達、林光さんも曲を付けていますがこちらは大分シュールです。

シェークスピアにも通ずる闇が賢治の言葉の中に潜んでいると光さんは見極めていました。

さて、ハラタイケンバイレンと読む表題の詩、これも尋常ではありません。

この詩に付けられたリズム呪文は英文表記で「dah- dah- dah- dah- dah- sko-dah- dah-」。

風の又三郎よりも10年程前の作品なのにそのリズムの磁力は既に歪む寸前のパワーです。登場する詩句も「太刀を浴びてはいつぷかぷ 夜風の底の蜘蛛おどり 胃袋はいてぎつたぎた」七五調とは言え、これではさながら不思議の国のアリス太鼓団。

 

周囲に理解されなかったのも無理からぬこの語感から僕が妄想連想するのはTINARIWENの極上のリズム感、トゥアレグ族が生んだグラミー受賞グループです。

初めて僕が彼らの音楽を聴いたのはイングランド中西部、ギタリストのDavid Rhodes宅のキッチンでした。

今日は晴れているから、とDavidがCDをかけた途端、一家全員と変な日本人客一名が踊り出して止まらない、という奇怪な舞連がうごめきだしたのでした。


『アマン・イマン~水こそ命』 - Aman Iman: Water is Life (2007年)​​

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