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#12. 花の街

何時までも新しい聴き手の心を震わせる音楽を "スタンダードナンバー" と呼びます。

 

ヒット曲にその資格が必ずある訳ではないことも私たちはよく知っています。似たものが存在しない作品、を作ることは至難の業、歴史の継続性の中で初めて作品は生まれ、何がどう作用する結果なのか、多くの人の心に突き刺さって残るものが時々?生まれる訳です。

 

例えばデザイン、ピースマークもハーケンクロイツも概ね世界中に意味と共に通じます。おそらくその形象には原型があり変形も数え切れない程有るにも拘わらず、この二つを取り違える人はいません。音楽にもそうした面が明白にあります。

 

 

Beatlesの「Yesterday」を聞いたことが無い人はいても、他の曲と混同する人はまずいないでしょう。「運命」や「ラ・マルセイエーズ」もそうです。Stonesの「Jumping Jack Flash」などはそっくりな音楽が沢山有りそうですが、埋もれることが無い何かに満ちています。

 

その力はどこに潜んでいるのか?見つめてみる値打ちはあります。分析出来たとしても同レベルのものを生み出せるようになるはずなど無いのですが。

 

例えば「Yesterday」の場合、曲の前半には同じ楽想の繰り返しがありません。物語は先へ進んでいくだけ、しかも俳句のように、あるいは倒置法と呼ぶべきか、結論が冒頭に明言されている感が有ります。「運命」の冒頭だけは子供でも知っているのに近い効果でしょう。

 

そして曲が進み、" I said something wrong~ " の辺りで初めて同じようなフレーズが繰り返されることが劇的に耳に残る、という仕掛けなのです。メロディーを聴いているだけで和音進行が感じられる、という点は以前も書きましたがバッハのソナタと同じレベル、まさに天才の書き残したものです。

 

 

で、今回のテーマ、團伊玖磨作曲の「花の街」

ある仕事の関係で最近見直したのですが、この曲は「Yesterday」に競ります。冒頭からの音楽的物語の流れ、中間部に出てくる唯一の繰り返し、そして唐突と感じる寸前に美事に終結する呼吸、日本のうたの白眉と言うしかない傑作だと改めて学びました。

 

メロディーだけを聴いても転調している効果も感じられるのですからスゴいです。終戦後直ぐにラジオ番組の中で生まれ、キャッチでポップで人々の心を明るくするメロディーと受け止められたに違いありません。

 

これぞ深く研究するべきスタンダードナンバー。

日本のシンガー・ソングライターの皆さん、先輩は天才でしたよ!

© 2025 Akira Inoue / Pablo Workshop.

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