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#03. Birdland

2022年の秋は「再認識の秋」になりました。

 

1986年の作品「TOKYO INSTALLATION」再発はこの春でしたが、SONYが展開する"360 Reality Audio"で空間リミックスする事になったのが発端です。さすがに大手、36年前のマルチ素材が保管されていて、改めて創造的に使える環境があったのです。

 

この作品、黎明期の名器PCM3324で業界初海外録音!という(宣伝文句、でも少しうれしい)ものでした。

録音環境の劇的PC化を経た今から見ると制限の多い、しかもお金も時間もかかる録音でした。

 

時間がかかると言えば、ロンドンはAir Studio第2スタジオで初めて録音をした時、お隣の小さなスタジオで当時ビッグネームだったヒューマンリーグが作業をしていました。僕の方は一週間強の工程だったのですが、隣から漏れてくる音はずーっと同じ曲のシンセフレーズでした。

 

朝から深夜まで、何しろ読経の如く反復。

 

こちらはすっかり覚えてしまい、でも全体は聞けないのでどんな曲かはついに判らず!?その集中力に驚かされたものです。

 


さて、「TOKYO INSTALLATION」の素材を聞き直すと、その音色の良さは記憶以上でした。

特に打楽器(ビル・ブルッフォードと山木秀夫)とシンセの音色は最近の平均値よりもパワフルかも…。

 

黎明期のデジタル機材を使っていても生き生きとしているのは、現在のように全てが一つのPCにまとまってはいないから、演奏家、エンジニア、スタジオ等の複数の要素がアナログに相互作用をしているからなのです。

 

そこで思い出したのがWHEATHER REPORTの名作「Birdland」なのですが、ここではリーダーであるジョー・ザヴィヌルがいくつものシンセサイザーを同時に使って色彩感豊かなサウンドを実現していた事を思い出していただきましょう。

 

今や複数鍵盤を並べるスタイルは過去の遺物のイメージですが、生楽器のように発音のアタックの早さ遅さ、音色の推移をフレーズ毎に表現するには不可欠でした。情報量の多さが奥行きを生む事はジャコ・パストリアスの演奏を聴けば誰もが納得する事でしょう。

 

ザヴィヌルも同様に、普通だったら他の楽器に負けて聴き取りにくそうな甘い怪しい音色をメインのフレーズに使い、和音の厚みは複数のシンセを束ねて、微妙なずれや音程の幅を生み出していた訳です。

 

あちこち牙だらけなのに耳に残るキャッチさもあるのもこの曲の魅力です。

ミーファーソー、ミーファソドー!!

楽譜にしたらベートーベンか?というフレーズは彼がウィーン生まれだからでしょうか?​​

© 2025 Akira Inoue / Pablo Workshop.

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