
#04. Woodstock
英国中西部ウィルトシャーにあるReal World Studiosは僕が世界で一番好きなスタジオ。
アーティストが宿泊するコテージの2階にはさりげなくジョニ・ミッチェルの油絵が。
彼女は画家としても高い評価を得ていますが、間近でというか、触れてみることすら出来るような距離で見られるとは驚いてしまいます。
ジョニはジャンルで語れない芸術家の代表格。初期はフォークシンガーと呼ばれましたが、後年はジャズを乗り越えオーケストラを従え、常に彼女の世界を美しく厳しく表現してきました。
病弱で握力が無かったのでオープンチューニングを考案したとか、Lambert, Hendricks & Rossのアルバム(これはすごい代物です)を自分にとってのビートルズとしてくまなく研究したとか、その歩み自体が普通ではありません。
彼女の初期の名曲に「Woodstock」がある訳ですが、Woodstockフェスは1969年の事、彼女は26歳、NY滞在中にテレビで見てこの曲を作ったんだとか⋯。
作曲法には作家の文化的背景により様々なアプローチがあり、分析をしてみたところでジョニと同じ創造の道を辿れるはずも無いのですが、「Woodstock」は能楽に近いというか、序破急とはこのこと、と言いたくなるような構成です。バランス感覚的にも常道とは全く異なるスピード感と楽想の単位、戯れに書いてみた図形を見ながら聴いていただけたら、この凄まじさが多少伝わるかもしれません。
冒頭部分は円環的と呼べば良いのか、行く手が判然としない、すなわちいつの間にか終止してしまうようなメロディです。
ところが盛り上げる手続きも和音の変化も無く登場する「We are stardust〜」の下りがこれほど印象的なのは言葉の力も相まってのこと。凡庸な書き手だったらここから構築してクライマックスへ導いていく訳ですが、天才の煌めきはそんなもんじゃ無いですね。
破〜急の展開は世界中を置き去りにするほどの瞬時。
しかも最後の音が突然オクターブ上に。ここまでの展開でいきなり結論へ飛び込む名曲、実は噂のビートルズに有りますね。「Strawberry Fields Forever」この曲もしずしずと始まったかと思うと急に角を曲がって終止、そしてお話し変わって〜と続く驚異のバランス感覚です。
天才の感覚は相似形なのでしょう。
そう言えば日本の天才ギタリスト、今剛はLAのスタジオでピンボールマシンで遊ぶジョニと遭遇した事があるそうです。
しかし、さすがの今ちゃんも彼女のオーラに押されて声をかけることなど出来なかった、のでした。