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Column

井上鑑+ Special Zutto Session

Live Report

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大阪の衛星都市のひとつといって許されるのでしょうか、守口市の住宅地の中に佇む不思議なSPACE。あの安藤忠雄の打ちっぱなしコンクリート長屋とは少し違うけれど、Spiritはつながるか!?と思われる音楽SPACE、Zuttoへ僕は初めてお邪魔をしました。Zuttoの運営をしているのは1990年代にアルバム制作やLiveを東京やらロンドンやらで多々一緒にした(当時)For Life Record の所属アーティスト「OWL」のリーダー、伊藤保さん、なので、こんな事を始めています,的な情報は数年前から耳にしていたのです。が、なかなか訪問する機会も持てず、という状態でした。2026年初春、流れが突然やって来て、Arrange Seminar + Mini Liveが実現しました。20人もお客さまが入ったら満杯、なかばレッスンルームという設えとは言え、流石に経験豊富なアーティストなので、音楽創りに必要な要素はしっかり押さえているSPACE、そして手作りの温かさのあふれる空間でした。

 

Arrange Seminarと言う形式は以前、ヤマハ銀座スタジオ(ヤマハ銀座店B1F)で数回、Live形式でやった経験があります。その時にはバンドだったりDuoだったり様々なジャンルのアーティストが参加してくれて生演奏主体の構成でした。それぞれのオリジナル曲を事前に僕が勉強して,ポイントを絞ったアドバイスや修正提案を当日メンバーに伝え、その場で試してみる、、、そして「原型と比べて良くなったと感じるかどうか?」を会場のお客さまも拍手で意思表示する、と言う楽しい企画でした。お客さまのチョイスとバンドのメンバーの感触が食い違う時もあり,時にはバンド内で異論が戦わされたり、でも何というか,会場のみんながアーティストの表現したい事に対して心から応援する,と言う空気が自然に生まれるのが不思議なほどでした。先生が生徒に教えるという関係とは違う,学びと気づきの時間、それが音楽をどれほど活き活きとさせてくれるのか、その実感を伝えたい,というのが今回のテーマだったのです。

 

今回のセッションもセミナー受講者(曲)を公募して,音源を送って頂き、その音を僕が事前に勉強してリアクションする、という形で進めました。生演奏が当日出来るかどうかもチェックしながら、という経緯だったのですが、4組の方達が参加する事になりました。受講者の募集には直ぐにリアクションがあり、思いの外早く締め切るという事態になったのは少し驚きましたが、Needsが在った,という事なのでしょう。ある程度以上のレベルで製作をしていると、客観的意見や提言を聞く機会が持ち難くなるものです。でも、どんなレベルにおいても,停滞からの脱出を願う時、鋭い耳の聴き手の存在は道標になってくれる事を,みなさん感知しているのでしょう。

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初の受講者はこれから音楽大学へ入学するというフレッシュな若き音楽家、新道鼓太朗さん。ある種ティピカルなDanceオリエンテッド曲「Don’t stop the music」を持ってきてくれました。Dataのやり取りの段階で彼が多少不慣れだったせいか、フレーズの位置指定がずれてしまい、僕がミックスされている音源とマルチDataを聴き比べなかったというミスもあり、事前の学習段階で僕が誤解をしてしまっている要素がありました。ところが、最初に鼓太朗さんが自作音源と共演してくれたおかげで,僕はシンセソロが本来入る位置など、オリジナルの構成を僕が誤解していた事に気がつけたのでした。そんな訳で僕としてはいきなり謝罪です!そうだったんだ、僕は「シンセソロの入る位置が構成上早過ぎて問題だ」とアドヴァイスするつもりでいたのでした。全く必要の無い指導だった訳で、直ぐにもっと深いところでのレクチュアとなりました。それはバスドラ4分音符連打のもたらす功罪、盛り上がりや色彩変化を作り難くなってしまう危険性について、でした。4分音符連打自体が良くないとかでは無く,低音音域でのフレーズ繰り返しは強力な影響力を持つよ、というアラートです。

 

また、演奏面でのRhythmの作り方にも僕が感じた事がありました。Keyboardによる熱い演奏だったのですが、同じパターンが続いて、逆にフラットな印象になってしまうのです。Grooveを生むのは音と音の狭間にある空間、Dynamismは休符から生まれるのだ、というお話しの後,鼓太朗さんには同じBackingの中でどれだけ休符を感じながら演奏出来るのか、いきなりやってもらうという試練の時がやって来ました。しかしながら,ほんの少しの演奏のニュアンスの差が生みだしたものは大きく、Grooveが活き活きと跳ね出した、のでした。
曲の後半で転調する、という手法も僕が提示しました。繰り返しという手法は快感でもあり、逆に作用すると飽きられる原因ともなります。効果的な色彩変化を生み出す、その一例でした。ドイツのテクノgroup、クラフトワークが好きだという鼓太朗さんが独自の個性を音楽の中に表出する日はきっと近い事でしょう。

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二人目はループマシンを駆使して表現をしている白田将吾さん。生ギターと歌で彼の代表曲「Don’t worry, Say hello」を先ず普段通りに演奏していただきました。YouTubeに沢山の作品を上げていたり、ライブ活動も活発にされてきたキャリアの持ち主だけに、ループマシンの使い方にもとても慣れていてスムーズ、完成度の高いパフォーマンスでした。デモ演奏、と言っても良いくらいのレベルなので、その意味ではほとんどアドヴァイス不要、のアーティストです。
ただ、ループマシンにも定形化してしまいやすいという課題があり、白田さんの場合、せっかく歌唱力が優れているのに「のびのび感」を発揮するパートが曲中に無いのがもったいない、と僕は資料勉強の段階で感じていました。

 

そこで先ず、構成の何処かでループマシンを止めてRhythm的に自由な箇所を作れないだろうか、という提案をしてみました。白田さんからは技術的な可能性について沢山のコメントがあり,いくつかの手法を試してみた結果、曲の冒頭に自由度の高いヴォーカルパートを持ってくる、という形が浮上してきました。また、ループマシンでRhythmを組み立てる場合にも、印象的なフレーズが埋もれてしまうのを避けて「曲の顔」となる要素を強調する、というTryをして頂きました。その際にもギター演奏の確かさや即応力の高さが垣間見えましたが、ご本人は歌でフリーな表現をするのは不得意である、と言うのです。そこを無理にでもやってくれ、と僕が強要!?したので、ためらいつつ始めたお試し演奏、曲の持つ親しみやすさも活かしながら、アーティストとしての存在感や説得力が際立つ素敵なパフォーマンスになりました。Arrangeを考える場合、個性的であろう、と努力する視点は大切なものです。他のひとには難しいアプローチでも白田さんには軽々出来る、そんな表現者になっていく予感に満ちた時間でした。

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番目の受講者、井上暖之さんとは実は以前から面識がありました。彼はエレクトーン演奏の名手でコンクール全国大会に於ける輝かしい経歴の持ち主です。
偶然にも新道鼓太朗さんの入学する音大の先輩、でもありました。井上さんの作品Titleは「May be」、展開の多いarrangeでありながらまとまっており、エレクトーンで学んできた楽識が充分に活きているものでした。実はVocalパートも非常に良く出来ており,僕は勉強段階では井上さんが歌っているものと思い込んで感心していました。ただ、1箇所英詩部分で,同じ歌詞を繰り返しているのか、韻を踏んで別の歌詞になっているのか判然としないところがあり、ステージで質問したところ「同じです」という回答で、何となく違って聞こえるのになぁ、と思ったりしていました。その後の会話で、AIを使ってVocalパートは作られている事が判明、僕の疑問にもある種の答えが見えたのでした。ソフトウェアの進歩は著しいものですが、それでもイントネーションやシラブルがやはり人声とは違う流れになる事もあるのだ、という事なのでしょう。僕としては、時代の変化を体感した瞬間でした。

 

作品の構成はよく考えられており、全体を通した流れを作るためにIntroに入っているGuitarのフレーズを歌の前半部分にも加えて印象を強くする事、サビ部分に入っていたStringsのフレーズとBasslineの関係を見直す事を提案して僕が作った修正音源を聴いて頂きました。<May be, May be>とレピートしている歌の譜割りを際立たせるには周りの要素が違うRhythm的発想になった方が効果的だ、というアドヴァイスです。後半部分にも数カ所のギミックが散りばめられていて,聴くひとを飽きさせないarrange、ヤマハは沢山の優れた音楽家を育ててきましたが、井上さんは次代の存在としてどんな音楽を作ってくれるでしょうか。

て、最後に登場したのが小山実さん。実は小山さんとは井上さん以上に深い関わりがあり、40年以上の時間を経て再開、という驚くべき間柄なのです。僕自身、仕事を始めて直ぐの時代、1982年に小山さんはSOLOデビューしており、1枚目のアルバム「Hard to be a man」は何と僕がプロデュースして、当時から一緒に仕事をしていたパラシュートのメンバーを始め、現在でも共同作業を続けている仲間達が勢揃いしている作品なのでした。受講申し込みがあった時、Zuttoの伊藤保さんから名前を聞いて僕はもしや!?と思ったのですが「鑑さんにプロデュースしてもらった事があるそうです」との話を聞いて,こりゃ間違いないや、と確信したのでした。事前の資料でも80年代に印象的だった伸びやかなVocalは健在で、しかも「頑張ってこー!」というTitleのオリジナル曲は東北大震災の後にメッセージソングとして作られ、坂本九さんの「上を向いて歩こう」のメロディーを編み込んだ深い思いのこもった音楽です。4人の受講者のみなさん、それぞれレベルが高くて,アドヴァイスと言っても本当にささやかな提案というか、ちょっと客観的な視点をささやく程度の事でしたが,小山さんも同じで,僕の修正案は、<上を向いて歩こう>の登場のさせ方、即ち曲全体のテーマをどれだけわかりやすく聴く人に伝えるか、というだけの事でした。


修正案音源を聴いてもらって、再度演奏、僕も鍵盤で参加したのですが、ごく単純に<上を向いて歩こう>の中の印象的なフレージングをごく短くIntroのテーマとして聴くひとに何かを予感させる+オリジナルでは間奏部分に<上を向いて歩こう>が割と長く引用されていたのを割愛して、小山さん作曲の「頑張ってこー!」と言う繰り返しフレーズが<上を向いて歩こう>と組み合わさっているパートが早めに登場する、という仕掛けのarrangeにしたのです。「頑張ってこー!」部分のメロディはEar catch力絶大、よく出来たCM曲のフレーズ
のような印象的なものなので、一度聞いたら忘れない、というポピュラー音楽の真髄を押さえている作品です。様々なジャンルの音楽を作り続けてきたという小山さん、最近はヒトヨシノビタという名義で活動されているそうです。この「頑張ってこー!」はリリースを目指しているそうなので僕も期待しつつ、応援もしたいと思っています。

うして4組のセミナーが終わり、僕のMini Liveとなりました。きっとセミナーが充実して時間も長くなるだろうと悲観的予想をしていたのですが、内容が濃かったせいか意外にスムーズに進行したので、4曲演奏する事が出来ました。
セットリストは以下の通りです。
M1「Absolute」
M2「Cellist」
M3「Wordium」
M4「X=歩幅」

4曲の演奏と曲紹介などが終わった後、当日残念ながら欠席になってしまったOWLのVocalist、げんたさんの作品で、1枚目のアルバムに収録されており僕にとっても想い出深い曲「SUNDAY, Goody penguin」を受講者のみなさんにもChorus参加して頂き、締めの一曲として演奏しました。音楽を通じて一体感を得る、それは普通のコンサートでももちろん可能な事ですが、曲がどのように組み立てられているのか、を感じて頂ける貴重な時間になったと思います。


終演後の懇親会もシェフ保さんの美味しい手作りParty Foodと共に、みんなで音楽を語る時間となりました。それこそ80年代から熱心に聞いて下さっていた方達も多々居らっしゃり、質問内容もなかなかに凝った会話の数々、そんな中で若い世代のアーティスト達が旅路を重ねていくのだ、と感じられる会でした。
Mini Liveの最後にRespectのコメントした事なのですが、音楽表現は聴き手や音楽仲間と出会える場があってこそ、密度を上げていけるものです。保さんと奥様である悦子さんの意思が形になって実っているこの場所、貴重で素晴らしい存在でした。

後に再度、Zutto関係者のみなさま、参加者のみなさまに感謝と、今後への期待とをお伝えしてLong Reportのcodaとします。

 

Thank you for all @ Zutto!!


 

© 2025 Akira Inoue / Pablo Workshop.

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