
#2. 心に風邪の
2009年〜2010年にかけて、松岡正剛さんからのそそのかしに乗じてWebサイト「ISIS本座」に連載した「千律譜BASHO」を引き継ぐ言葉と音楽をテーマにしたコラムを再連載します。
松尾芭蕉の残した日本語表現の粋を手掛かりに、そこからJumpして一曲の音楽作品を取り上げる旅の試み、再び。
(Weather beaten)Wind pierces my body(To my heart)
(野ざらしを)心に風邪の(しむ身哉)
パンデミックという言葉に、見慣れないという印象が消えたのは何時のことだったか?
世の中は様々な原因でこうまで変化していくのか、しかもあっという間に、と思い続けた時代の幕を開けた言葉だった。そしてコロナ禍は人類が弱者であり続けてきた歴史を振り返るきっかけにもなった。1920年代には通称スペイン風邪と呼ばれるインフルエンザ感染者が世界の人口の30%に達し、何千万人もが命を失ったという。
その30~40年前にはロシア風邪という別種のパンデミックも地球を覆ったらしい。歴史上の事実として、どこかで聞いたことはあった気もするけれども、スペイン風邪の最初の感染者がアメリカ、カンザスの米軍基地だったとは知らなかった。それじゃカンザス風邪じゃない、とスペインを弁護したくなるが、2015年にWHOは感染症の名称に地名や国名を付けるのを止めたとのこと、誤解や差別を生むから、という実に腑に落ちる理由である。
さて、心に風が吹く(この句には「風邪」という表記も「風」一文字の場合も見受けられる)というIMAGEは、恋の喜びから人生の悲哀まで様々な音楽と共にある。僕自身に一番近そうなのは、おそらく大瀧さん作曲、松田聖子さん歌唱の「風立ちぬ」だろう。
秋の風が吹き始めましたよ、と言っている訳だが、直後にある、今日から私は心の旅人、という松本さんの生んだ1行がその風を内面へと導いていく感覚が素晴らしい。この一言がこの曲の深みを生み出し、Ear Catcherとしての役割を十二分に果たしている事に異論は出ないだろう。
ヒット曲にはそうした差異をさりげなく生む要素が隠れているものだが、実はこの曲、多少僕も貢献しているかもしれない。ストリングス・アレンジを託された時、所謂大瀧節Introの常套句、5度から6度、メージャー7thからまた6度へ下りてくる和音進行にちょっとリズミックな衣装を着せてみたらどうかな、と思いついたのだった。お馴染み過ぎて飽きているとか思った訳では無かった、と思うけれども、もしかしたら同時期に作った薬師丸ひろ子さん「探偵物語」のIntroの発想とつながっていたのかもしれない。弦楽器が不意にリズミックになる事で印象を強く生む、そんな書法がマイブームだったのかも⋯。
そんな訳でこの曲には<ジャンジャンジャカジャカジャン>というストリングスによるEar Catcherも現れたのだ。
もちろん、若干大胆なこの提案に乗ってくれてヒットに繋げた大瀧さんの感性と理解力があってこそ、の2小節である。

