
#22. Misery Is The River Of The World
最近の車にはCDプレーヤーがないのが普通。
でも携帯文化に馴染めない僕は運転中に音楽を楽しむ、という悦楽を失ってしまいました。
以前は興味のあるCDを数週間ヘビーローテーションで聴いていましたが、大抵は自分がその時関わっている作品とは距離のある音楽でした。
Tom Waitsは最多登場者のひとりで、彼の作品に浸っていると東京の街もフロントグラス越しに短編映画のように見えてくるのです。専門的音楽教育によって失われがちな感性のマグマがそのままぶつかってくる、寂しくて愛しいとともに鋭い問いかけに満ちた音楽です。
彼のLiveをロンドンで見られたのは忘れられない体験でした。テクニックが無いと語っているTomですがそれは全くの偽り?で、不思議なフレーズをピアノで弾きながら、聴衆と語り合うMCは超絶技巧以外の何者でもありませんでした。しかもブズーキやらサズーやらが加わったバンドは微分音の揺らぎに満ちていて、なまめかしい空気がどわっと押し寄せてくるのです。
全然聞き取れませんでしたが、聴衆の発言!?も、粋な感覚に満ちているらしく、満場が「爆笑」ならぬ「微笑み頷く」と、それにTomがぼそっと切り返す、何とも言えない距離感が僕には驚愕でした。
驚きと言えば「ヴォイツェック」日本公演の冒頭、客入れ時にオケピットに居た調律師が実はバンドのピアニストで、調律のポロンポロンがそのまま最初の曲に繋がる⋯その展開にも驚かされました。調べてみたら2003年の公演なので20年以上前、会場の国際フォーラムは1997年開館、前衛が古典になる速度はいささか速すぎます。
さて、「Misery Is The River Of The World」はこのオペラ「ヴォイツェック」の主要部分を担う曲ですが、前述のとおり、別世界への窓としてのポテンシャルはスゴいものです。言葉の力も尋常ではない訳で、「悲惨さは世界の河、みんな、漕げ」と繰り返されるフレーズの切れ味は鋭い。でも、何故か哀しみと優しさが同居する魅力、自然に口ずさんでしまうようなメロディーなので聴くひとを突き放しません。
もちろんTomの超ハスキーな声質の奥行きが表現の核ですが、曲中に紛れ込む3拍子のフレーズやモノトーンの和音進行は独特です。シンプルなのに形骸化感がない、という理由がどこにあるのか?
傍らにTomが居ない僕たちは熟考しなくてはいけません。等と書いていたら、是非ともアナログ盤で聴きたくなってしまいました!

