「メタファー」


少し前のこと、具体的に言えば今年の春4月末から6月末にかけて東京都西部、世田谷美術館で「ある編集者のユートピア」と題された展覧会があった。小学校4年生以来の地元民でもあり、一時は今や伝説ともなってしまったシャンソン由来の文化加速チームconversationの面々と共にあれこれのプロジェクトを手がけた世田谷美術館である。情報は会期以前からつかんでいたが、よくある展開でクローズ寸前に駆け込みで見に行ったのだった。小野二郎という名エディターを通してユートピアについて見つめるといった趣の展覧会。晶文社、そして植草甚一という懐かしい名前に出会い、植草さんの自筆原稿や自作スケジュール帳まで登場するとは予測もしていなかった僕は、かなり先祖がえりしながらきゃっきゃと空間を満喫したものだ。
で、その時に関連商品販売ブースで見つけて買ってしまったのが「ブラッドベリ、自作を語る」という晶文社の本である。僕にとって晶文社というブランドは無印良品やババグーリ的な親族意識のある名前であり、ましてアイドルであるブラッドベリ本とあれば迷う必要もない。あ、知らなくてすみませんでした。と口ごもりつつ購入したのだが、、、この本は正直言って全く素晴らしいものである。唯一、うむむと唸ってしまうのは何故に「Listen to the Echoes」という原題がグーグル翻訳でも出て来ないであろう「自作を語る」という日本語に変換されるのか?という実に良く有る情けない景色である。マーケティング的に「ブラッドベリ」と始めるのは許そう、でもせめて「ブラッドベリー、余韻を聞く」にして欲しかった。晶文社なのですから。少しばかり販売部数は減るのかもしれないが、このタイトルが心に響いた読者たちは一生晶文社の本を買い続けるのだから、大局的には営業効果が大きいはずなのにな。
 
とにかく創造性と示唆に満ちた言葉と単語の詰まった本なのだが、ブラッドベリが自身について語るなかで一番Echoが長く美しいのが「メタファー」という言葉であった。英和辞典を引けば「暗喩」「隠喩」と書かれていて必ずしも動的には見えないが、英英辞典を引けば「application」という言葉が最初に現れて驚かされる。応用とか申請とかいうイメージは「暗喩」という言葉の持つ距離感とはちがう積極性や能動性が浮かび上がってくる気がする。そもそも僕にとってブラッドベリは良きアメリカ文化のひとつの象徴である。でも図書館を熱愛し、少年期に悲惨な交通事故を目撃したのがきっかけでロサンジェルスに住み続けたのに生涯車を運転しなかった!という人物像は鮮烈な印象を与えるもの。感じたこと、考えていることを伝える術、それが「メタファー」なのだと彼は言うのだ。
 
なるほどと合点がいく実例は多い。音楽そのものが契約や条約の書類には成り得ない性質を持っているのだから当然だけれども、ビートルズにせよマイルスにせよバルトークやメシアンにしても、みな「メタファー」なのだった。強制収容所の中で弦楽アンサンブルによって未来を暗示する作品を書いたメシアンと、通念上SF作家と分類されているブラッドベリが似ていると言ったら大概の人は??と戸惑うことだろうが、実はその精神性はとてもとても近いところで世界を凝視しているのである。
 
(Text and Photo By Akira Inoue)

 


≪From Akira Inoue≫
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